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福岡高等裁判所 昭和52年(ネ)362号 判決

一審原告 井上精五郎 外一名

一審被告 国 外一名

主文

一審原告らの控訴をいずれも棄却する。

一審被告らの控訴にもとづき原判決を左のとおり変更する。

一審被告らは各自一審原告らに対し各々金一四〇万円および内金一二〇万円に対する昭和四六年二月八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

一審原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審ともこれを八分し、その七を一審原告らの、その一を一審被告らの連帯負担とする。

この判決中一審原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

一審被告らにおいて、一審原告らに対しそれぞれ金五〇万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事  実 〈省略〉

理由

一  当裁判所は、一審原告らの本訴請求は、主文第三項掲記の限度において正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は左のとおり付加、訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決二四枚目裏末行の「と」の次に「成立に争いがない甲第一〇四号証、」を、同二五枚目表三行目の「甲第四一号証」の次に「当審証人渡辺語の証言」を加え、同六行目の「トラツクの運転を」の次に「一時練習しようとしたことはあるが、本格的にその運転を」を加え、同二七枚目表九、一〇行目の「故意に虚偽の事実を述べて」を「過去の手術例の実績をありのままに告げないで」と改める。

2  原判決二九枚目裏四行目の「の結果」の次に「、当審における鑑定人戸嶋裕徳の鑑定の結果」を加え、同一〇行目の「二年ないし三年の余命であつたこと」とあるのを、「通常の社会生活を営むことを前提とする限り、その余命は数年と考えられ、不節制な生活態度があれば三年も永らえないものであつたこと」と改める。

3  原判決三〇枚目表一三行目から同裏五行目までを次のとおり改める。

「2 亡真一郎の慰藉料

一審被告井が熊大付属病院における過去の手術例の実績をありのまま告げて十分な説明義務を果していたならば、亡真一郎および一審原告らは同病院における手術をためらい、自己の理性的な判断にしたがい成功率の高い他の病院で手術するか、または手術を断念し内科的な治療によつて数年の余命を生きる途を選ぶことも自由にできた筈である。しかるに、一審原告らは一審被告井が説明義務を怠つたことにより手術に対する前示自己決定権の行使を妨げられ、これにより精神的苦痛を被つたであろうことは想像に難くない。

そこで、慰藉料の額について考えるに、前認定の一審被告井の説明義務不履行の態様、亡真一郎の本件手術時における病状の程度および余命、僧帽弁置換手術の危険度その他諸般の事情に照せば、亡真一郎の右精神的苦痛を慰藉するには金一〇〇万円をもつて相当とする。」

4  原判決三〇枚目裏九行目の「各一〇〇万円」とあるのを「各五〇万円」に改め、同一三行目の「多大の」の前に「前示のような」を付加し、同三一枚目表一行目の「金一〇〇万円」とあるのを「金七〇万円」に、同九行目の「金二二〇万円」とあるのを「金一四〇万円」に、同行目の「金二〇〇万円」とあるのを「金一二〇万円」にそれぞれ改める。

右認定に反する当審被告井正行本人尋問の結果は、原審援用の各証拠に照らし信用することができない。

二  結論〈省略〉

(裁判官 高石博良 鍋山健 足立昭二)

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